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Hong Kong / No.23 藤川 すみれ
¥2,000
私は香港を訪れたことはない。けれども、私の中の、まさにこれこそが香港という街のイメージそのものが、この本に凝縮されていると言っても過言ではない。 ページをめくるごとに、行きかう人々が、無造作に並べられた食べ物が、車とオートバイが、混沌とした住居が、香港という街のエネルギーを内包して目に飛び込んでくる。 藤川氏が記しているように、香港は東洋と西洋、富と貧、過去と現在など様々な要素を取り込んだ、生命力の強い街なのだなと思う。 ---------------------------------------------------------- 香港を旅してもう何度目になるだろう。 蒸した空気が肌にまとわりつく。街に出ると、信号機のカンカンとした音が鳴り響き、歩く人たちのスピードの速さにたじろぐ。私にとって香港は東洋と西洋、富と貧、過去と現在など様々な要素が混在した不思議な場所だった。 --- 中略 --- 私は偶然、香港の街と出会い、その街の生命力に魅了された。今まで私は彼らのエネルギーの源はどこから来るのか、知りたくて撮り続けてきたような気がする。 この先もきっと撮りに行くだろう。その源が尽きることのないように。 A5版縦、144ページ 2000円
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neighborhood - Moto Asakusa / No.21 tomohan
¥1,000
tomohan氏の豆本シリーズ2作目は、“neighborhood” シリーズ。 第1弾はtomohan氏がおそらく住んでいる地元、元浅草がテーマだ。 ホトリがある浅草橋も同じ台東区のためか、なんだか見たことのある風景が多い。 古い校舎や蔦が絡まる壁、何てことない商店街、工事中のビル。 何気ない風景が、小さな豆本の中におさめられている。 「rhythm of ripples」に比べると少し横長で、写真も見開きが少しワイドだ。 判型の違いに、tomohan氏のこだわりを感じる。 ------------------------------- “neighborhood” シリーズは「その町に住んでいる人が 日常的に見ている光景」をイメージした写真集です その街を訪れたことのない方には 一度歩いてみたくなる「親しみ」を 本当のご近所さんにとっては 馴染みある光景の中に「新鮮さ」を感じてもらえると嬉しいです 8.3cm×9.2cm ハードカバー豆本 24ページ 1,000円
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rhythm of ripples / No.21 tomohan
¥1,000
tomohan氏の2作品のどちらとも、まず目を引かれるのがその可愛らしい装丁だ。 写真の通り、手のひらに乗るほどの大きさで、まさしく“豆本”写真集。 カバーには革のような素材があしらわれていて、小さくても作りは本格的。 中の写真は厚紙状に貼り合わせになっていて、昔子どもの頃に読んだ絵本を思い出す。 1冊目の「rhythm of ripples」の「ripples」とは、水面に起こる波紋のこと。 空から降ってくる雨粒による小さな奇跡が、この小さな一冊にぎゅっと詰まっている。 ------------------------------- 空高くに生まれた雨粒は 美しい波紋を描いて一生を終える 空高くに生まれた雨粒のうち 美しく波紋を描けるのはほんのわずか 水たまりに映る自分の影を揺らす雨粒には 特別な出会いを感じずにはいられなかった 7cm×9.2cm ハードカバー豆本 24ページ 1,000円
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埋み火 / No.11 さかいまみ
¥3,000
「埋み火」とは、灰の中にうずめた炭火のこと。 一見隠れていても、その火は灰の中で消えていることはない。 作者のさかい氏の写真といえば多重露光。幾重にも重ねられ、少し妖艶な気配さえ感じられる作風にはインパクトがある。そして、さかい氏が同時に歌人でもあるということは知っていた。 けれども、その多重露光の写真と、彼女の歌を合わせて一つの作品として表現したことが、実に数年ぶりということは意外だった。 -出した答えの過程を 決して教えてはくれなかった それを不実というのだと 白い月があざわらう- -この恋に狂う覚悟はあるのかと 揺れてあざける散り散りの花- 幾重にも重なる美しい写真は、想いを強く宿す彼女の歌と響き合い、新しい一つの作品に生まれ変わっている。 さかい氏が胸に抱き続けてきた「埋み火」が、今はっきりと燃えさかっている。 16×21.2cm 縦 20ページ 3,000円
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KYOTO / No.3 八木 香保里
¥700
SOLD OUT
八木氏の愛機で1枚1枚丁寧に切り取られた京都のワンシーンたちが小ぶりな1冊にまとまっている。 写っているのは何気ない駅構内から、喫茶店、グラウンド、公園など、これは京都なのか、という日常と、たまに混ざる鴨川などの見たことのある観光風景(けれども、京都の人にとってはこの光景も日常なのだろう)が交差する。 作者の八木氏は京都出身。私にとっては京都は旅で赴く地だが、彼女にとっては京都は生まれ育った日常の場所だ。 故郷を離れて暮らす彼女の京都についての視点が不思議な印象を覚える。 そして表紙でにっこり微笑む外国人のおじさんはどなたなのか知りたい(笑) A6版縦、28ページ 700円
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いつかかわっていく景色 / No.3 八木 香保里
¥2,500
SOLD OUT
私たちはこの世に生を受けてから毎日、食事をしたり、仕事をしたり、勉強したり、人と会ったりして、夜は眠りにつく。 そしてまた翌日もそのことを繰り返す。 毎日少しずつやることが違っていたとしても、生きているという意味では一緒だ。 私たちは1日ごとに1日分年をとる。 それは、1日ごとに死に近づいていることに他ならない。 すなわち、私たちは毎日、人生を生きなおしながら、全うすべき寿命に向かって歩んでいる。 日々のくらしの中で、いつも目にするものや、自分の体や、まわりの人々、 ずっとかわらないようで、かわっていく景色を、八木氏が丁寧に掬い取っている。 死ぬ間際に見る走馬灯って、こんな感じなのかもしれない、とさえ思った。 ------------------------------- かわらないために かわる それは 大切なものを守ることに似ている 出逢いなおしているのだろう わたしたちは きっと いつかかわっていく景色 A5版縦、44ページ 2,500円
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橋が架かる / No.3 八木 香保里
¥2,200
SOLD OUT
タイトルの通り、とある海に橋が架かる様子が淡々と綴られている。定点観測のようだが、少し違う。 冒頭は少し離れた場所からとらえた遠い海からはじまり、次に続くのは、海の家らしき建物がこれから建てられるのか、建築材が無造作に置かれた様子の写真だ。そして、浜辺に集う人々と、徐々に橋が架かっていく様子が交互に登場する。 橋が架かる時期は夏の前なのか、前半の写真は曇りがちの空が多いが、橋が完成して人々がそこを渡るその様は、夏まっさかりである。そして、夏が終わり、また人の気配が少なくなっていく。 最後に綴られたこの文章を読んで、なるほど合点する。 橋が架かると、夏がはじまる。海に人々が集うのだ。 -------------------------- 橋が架かる 夏の合図 集う人たち それぞれの想い また会おう その日まで待っている 橋が架かる その日まで -------------------------- とある海に架かる橋。それは毎年繰り返されてきた夏の風物詩なのだろう。 橋が架かると、夏が来る。 めぐる季節に想いをはせる。日本に生まれてよかったなあ、と思う。 「橋が架かる」には、本の内容から選んだL判写真を表紙の代わりに一枚付けられている。 本場週間の会場では、おまけの写真を自由に選ぶことができるが、オンラインショップでの購入の場合は、どの写真になるかは届いてからのお楽しみだ。 B6版横、82ページ 2,200円
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hakutyumu / No.30 高橋 亜矢子
¥450
hakutyumu=白昼夢は、真昼に見る夢のこと。 冒頭から始まる光あふれる夢のような世界が最後まで続く。花びらにこぼれる光、雨上がりについた小さな雫。 ほんの一瞬、白昼夢を見ていたような、そんな気分にさせるzine。 B6版縦、12ページ 450円
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しましま / No.17 鹿野 貴司
¥1,100
写真家・鹿野貴司氏が日本各地の離島を撮影した写真展「しましま」で制作・販売されたzine。 ページをめくって写真を眺めていると、鹿野氏はその土地に溶け込むのがとてもうまいのだなあとしみじみ思う。これはこの作品「しましま」に限った話ではない。ほかのシリーズでも、鹿野氏はまるでもともとその地に住んでいる人のように、そこの住人たちと言葉を交わし、そしてシャッターを切る。写真に写っている人たちの表情は実に自然だ。 鹿野氏の人柄こそが写真家としての特技、天性なのだと思う。 撮影地は、田代島(宮城)、青ヶ島(東京)、佐渡島(新潟)、答志島(三重)、 大崎下島(広島)、大久野島(広島)、壱岐島(長崎)、竹富島(沖縄)など。 島から島へつながる写真たちだから、“しましま”。そのネーミングに少しほっこりする。 B5変型 18.2×18.2cm 22ページ 1,100円
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街と体温 -香港 / No.27 小池貴之 (Kino Koike)
¥1,200
SOLD OUT
PaperPoolで2019年2月に開催された同氏の個展「街と体温 – 香港」に合わせて制作・販売されたzine。 小池氏は私の昔からの写真つながりの友人で、個展も見に行った。彼の作品は昔からフィルムだ。記録としてデジタルも撮るが、私の記憶の限りでは展示作品は全てフィルムで撮られた写真だ。しかも、プリントはほぼ手焼きである。「街と体温 – 香港」の個展も然りだ。 ーライカM4-Pに白黒フィルムを詰め、香港の街と空気を5年に渡り撮影して製作した作品です。写真は全て手焼きです。 ValoyIIという引き伸ばし機を使い、暗室で一枚一枚プリントしています。ー(小池氏の日記より) それが一冊の本となったzineなのだが、印刷はおそらくオフセット、手焼きではない(販売分なので当たり前か)。にもかかわらず、小池氏の丁寧な手焼きの墨色が美しく表現されている。現代に撮影されているのに、遠い昔に掘り起こされた写真のような、眺めていると心の内側がざわつくような、そんな気持ちになった一冊。 余談だが、馬喰町のRoonee 247 fine artsで、2020年9月1日(火)より小池氏の個展「 Домой – シベリア鉄道 -」が開催される。ぜひ見に行かれるべし。 小池貴之写真展「 Домой – シベリア鉄道 -」http://www.roonee.jp/exhibition/room1/20200804112148 会期:2020.09.01(TUE)- 2020.09.06(SUN) 12:00 - 19:00 (最終日 16:00 まで) ------------------------------------- 「街と体温 – 香港」ステートメントより 高層ビルが空を覆い、道には高級ブランド、ハイテク家電ショップが林立し、物や人が溢れる香港。 この街は都会嫌いの私を惹きつける。他の経済都市とは違い、街の体温が感じられるからだ。 ボロボロのビル、古い食堂、湿気、生臭さ、クラクションの音、人混みと大きな話し声さえも興味深い。 時代の波に翻弄されながらも独特の文化や価値観を守り続けてきたこの街、そして体温を表現したい。 A4変型 21×21cm 29ページ 1,200円
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Pin-hole's / No.20 金子 明美
¥900
Pin-hole=針穴写真のこと。その針穴カメラで撮った写真を集めたzine。 針穴は文字通り、レンズの代わりに針の先ほどの穴を開け、そこを通った光で感光材料(フィルムや印画紙)に像を結ばせて写し取る。(デジタルカメラの場合は、感光材料の部分に当たるのが映像素子と呼ばれる部分。いわゆる何万画素云々のところ) 通常レンズがついているカメラで撮る写真は、ピントが合っているのが前提で、写っている被写体がくっきりはっきりしているが、ピンホールカメラで撮られた写真はそれが曖昧だ。いや、曖昧という言い方は適切でない。針穴カメラで撮られた写真には、その針穴から光が流れ込んでいる時間すらも写しこまれている。その少しの時間のゆらぎのようなものが、針穴写真独特のどこか懐かしい既視感を覚える写真につながるのかもしれない。 数百年も前に、今のカメラの原点として誕生した針穴カメラ。現在の進化したカメラに比べると同じカメラと思えないほどのシンプルな作りだが、それでもカメラはカメラだ。光がないと写真は撮れない。このzineを見ていると、そんなことを思い出す。 A5変型 14.8×14.8cm 24p 900円
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ただぼんやりながめていた / No.29 Mayumi Nakamura
¥750
SOLD OUT
ただぼんやりながめていた。そしてその延長線上で、ただシャッターを切った。 そんな、いい意味で肩の力を抜いた海の写真が淡々と綴られている。紙は薄い和紙が採用されていて、プリントは少しぼんやりとして柔らかい。それが、うまく暑さでもやもやとしている空気感をうまく表現している。 このシーンを切り取ってやろう、こういう構図で撮ってみよう・・・ 写真を撮る人は無尽蔵にいて、撮り方も構え方も皆それぞれだ。けれども、Nakamura氏の写真にはそのような気負いはなく、ただ淡々と撮られている。それが心地よい。 A5版横、14.8×21cm 53ページ(うち薄紙13枚) 750円
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B-sun / No.29 Mayumi Nakamura
¥650
「B-sun」って、どういう意味なのだろう。昭和生まれの私は「B-sun」と聞いてまず思い浮かべたのはカセットテープのA面・B面だった。(なぜか) が、ページをめくってそれが思い違いだったと知る。「B-sun」は、まんま“ビーサン”だった。冒頭数ページに登場するビーチサンダルたち。久しく海に出かけることがない私にとって、ビーチサンダルってこんなにカラフルでデザインのバラエティに富んでいるのか、と妙なところで感心する。 その後も、海辺のそこかしこに登場するビーチサンダルたち。何気ない海辺の1日を、彼らの視点で構成したようなzineに仕上がっている。 A5版変型縦、14.8×14.8cm 24ページ 650円
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白黒男子の総天然色図鑑 / No.19 小野﨑 由美子
¥700
SOLD OUT
白黒男子、その名は「しじみ」 猫種はmix、毛色は白黒ハチワレ。性格は人好きの寂しがり屋。特技は猫とは思えない大声を出すこと。 2014年に6月に都内某所を歩行中スカウトされ、同月に正式に「しじみ」としてメジャーデビュー。そしてその5年後、ナダール東京での公募展「わくわく動物展」で衝撃のモデルデビューを果たす・・・! この作品は、saorinによる下手なレビューは不要な気がする(笑)。 しじみがスカウトされてから年々成長し、現在に至るまでの白黒男子の総天然色図鑑、とくとご覧あれ。 A5版縦、22ページ 700円
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絶景への行き方 / No.19 小野﨑 由美子
¥700
このzineのタイトル「絶景への行き方」を目にしたとき、何とわかりやすくストレートな表現だろうと思った。そしてこの作品のページをめくってみて、この言葉以上にはまるタイトルはないだろうと納得した。 「世界で一番美しい砂漠」 「サバンナの見返り美人」 「ミルキーブルーの氷河湖に、初雪の訪れ」 「カナリア歌う島で、火山が作った奇妙なキノコたち」・・・ 1ページごとに、作者の小野崎氏が旅した世界中の絶景が、旅する心をくすぐられるタイトルとともに、惜しげもなく紹介されている。ニュージーランド、スペイン、ハワイ、グリーンランド、ケニア、台湾、ナミビア、アイスランド、香港・・・はたまた日本まで。紹介されている絶景を撮影した地、国名を列挙してみると、何というか、訪れている国に偏りがない。まさに世界中を歩き回る、根っからの旅人なのだなあと感心する。 そして、そんな生粋の旅人・小野崎氏が選抜した、世界中の絶景オブ絶景たちは、その美しい写真だけでなく、実際にどのようにたどり着けるかという交通手段と、彼女のその地のちょっとした旅のこぼれ話が添えられている。 写真好きが旅をするとき、こういう情報が欲しいんだよなあ・・・いわゆる普通のガイドブックには食指が動かないそんな貴方なら、ぜひこの一冊をどうぞ。 A5版縦、22ページ 700円
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流れのそばで / No.8 金子 美香
¥1,800
SOLD OUT
作者の金子氏の近所に流れている多摩川。 神奈川県民にはなじみ深い川だろう。その多摩川を上流から下流まで辿る旅を1冊にまとめている。 純粋に、上流と下流ではここまで川の表情が異なるのかと、新鮮な驚きを覚えた。 奥多摩の上流はまさに自然そのものだ。流れにも勢いがある。(そうか、今さらだが「奥多摩」の地名の語源は、多摩川の奥という意味でもあるのかとここで気づく) しかし、多摩川も人々の生活圏まで流れてくると、川の表情はがらっと変わる。河川敷の運動場や、桜並木、京急線(おそらく)の線路など、私たちになじみのあるものたちのそばに、多摩川はいつも穏やかに流れている。 川は、時には自然の脅威そのものに、私たち人間に襲い掛かる時もある。 それでも、人々は流れのそばで生き続ける。 ------------------------------------------------ 私の家の近くに多摩川が流れている。 私にはいつもの景色だが、上流と下流ではその景色はずいぶん違う。 上流の奥多摩から下流の羽田空港手前の河口まで辿ってみた。 人々は多摩川とどのように関わっているのか。 多摩川を再認識する旅。 場所は違っても、住んでいる人にとっては 私の街の川だということ。 流れのそばで生きる。 多摩川への愛情が見えてきた。 A5版縦、96ページ 1,800円
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field / No.8 金子 美香
¥900
SOLD OUT
写真を撮り始めたばかりの時、カメラのファインダーをのぞいただけで、自分の周りにある風景ひとつひとつに魔法がかかったような気がした。足元に咲いている小さな花や、くつろぐ猫、葉に止まっている虫、美しい夕焼け空。それらを撮ることで、写真の楽しさを一つずつ覚えていったことを思い出す。 2020年4月~5月、コロナによる緊急事態宣言で、写真を撮っている人たちは撮影になんらかの制限がかかっただろう。それでも、自分のフィールドでこんなにも楽しい世界が広がるのだということ、「初心に帰る」すばらしさを、この金子氏の一冊が思い出させてくれた。 A5版縦、32ページ 900円
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しのぶれど / No.22 市ノ川 倫子
¥3,000
かつて平安末期から鎌倉初期にかけて活躍した歌人たちは、このように美しい歌を残していたのかと、そしてそのことを、写真集から改めて知るということに、新鮮な感動を覚えた。 写真と言葉は、慣れ合いすぎてはいけない。けれども、ときには言葉が補って作品となる写真もある。写真と言葉のベストな関係は、その時その時で変わっていく。 現代の日本語だとストレートに説明しすぎる表現が、言下にさまざまな意味を持つ和歌によって、ふんわりと中和されている。市ノ川氏の作品は、その主義主張を完璧に訴えてくるのではなく、どこか余韻が残されている。そこに和歌がうまくはまっている。 「恋が、私から零れ落ちています。」 なんとロマンティックで素敵な表現だろうか。 市ノ川氏の言葉「隠そうとしても隠し切れない、にじみ出す美しさを秘する思い」そのものだ。 ------------------------------- 『しのぶれど いろにいでにけり わがこひは ものやおもふと ひとのとふまで 隠そうとしても 視線に、佇まいに、気配に すべてが物語っているように 誰かに気づかれる 恋が、私から 零れ落ちています。 百人一首 第四十番 平兼盛』 和歌の持つ言葉の曖昧さ 一つのフレーズにいくつもの意味を重ね合わせて 表現するところに 自身の作品との共通点を感じ 日本の古典文学である百人一首のうち 第四十番 平 兼盛の歌をテーマに表現した一冊 A4版縦、42ページ 3000円
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BREATH / No.22 市ノ川 倫子
¥3,000
懐かしさを覚える美しい風景を重ね合わせて、夢で見たような世界を作り上げる。 ステートメントにもあるように、市ノ川氏の作品は、筆で少しずつ塗り重ねてできあがった絵画のような厚みがある。一言で言えば多重露光なのだが、一見巧妙な重なり具合で、多重露光と気づかされない1枚もある。 彼女の頭の中には、どの写真とどの写真を重ね合わせれば、どんな世界が生まれるのか、レシピがいくつもあるのだろう。 まるで、異なる絵の具同士を混ぜ合わせるとどんな色が生まれるか、既に知っている画家のように。 画家の目と、写真家の目を両方併せ持つ市ノ川氏ならではの作品集だ。 -------------------------- 『I can hear in this world breath What is played beautiful harmony melody What comes to mind that distant day the scenery I saw in my dream BREATH 聴こえるのは この世界の 息吹 奏でられるのは 美しい調和の 旋律 浮かび上がるのは 遠いあの日 夢で見た景色』 写真を重ね合わせて遠い昔に 見た夢の中の景色のような どこかにありそうでどこにもない場所を 描くように撮り続けている 作者の代表作品を集めた初の写真集 A5版横、60ページ 3000円
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Finder / No.12 スズキ トモコ
¥600
ーファインダー越しに見る東京は、刺激的で美しい。 前半はモノクロ、後半はカラーと、おそらくフィルムで撮られた東京の街のスナップ作品集。 横断歩道を渡る人々、映画のポスターが貼られた店先、民家に咲き誇るモクレン、テールランプがまぶしい夜の道路。東京は、“こんなところ”と一言で表現するのが難しい、とらえどころのない街だ。だが、それも全て東京なのだと、スズキ氏のこの1冊で納得した。 きっとこのシリーズは終わりがないのだろうと思う。 飽きることなく撮り続けられるのが、東京という街なのかもしれない。 A5版縦、26ページ 600円
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山を探す / No.28 川野 恭子
¥3,850
写真家にとって被写体が表現の“媒体”だとしたら、近年の川野氏のそれは山だ。 彼女の写真はいわゆる山岳写真ではない。山岳写真と言えば、日本全国にそびえたつ堂々たる山々を迫力ある画角で切り取る、○○岳や××山の雄姿をとらえた作品が多い。けれども彼女の作品はそうではない。写真におさまっているのはどこの山なのか、という事実は重要ではない。焦点は別のところにある。山はあくまで表現の媒体であり、故に彼女の写真に登場する山々に固有名詞は必要ないのだ。 蛇腹式のページは、彼女の意識がそのままつながっていることを表しているのだろうか。ページをめくり進めていくにつれ、山に登る人間にとってはおなじみのあれこれ、例えば道しるべとなるピンクリボンや石を積み上げたケルン、寝袋やテント、ガスバーナーなどが登場する。立ち枯れた樹々、岩に描かれたペンキの矢印、ぽつんとそこにある落石、こちらをじっと見つめる鹿。彼女が見ているものを通して、ページをめくる我々も、山の世界にすっと入り込んでいく。それらは、時には光射す森の中や霧深いカールを歩きながら、または幕営して山に抱かれて眠りながら、彼女が自らのルーツを探し求めている意識の流れを形作る要素たちとも言えるのかもしれない。 実は私と川野氏は山友達でもあり、近年一緒にさまざまな山に登った。この写真集「山を探す」にも私がちょこちょこ登場している。 最近はコロナの影響でなかなか一緒に山に出かけられていないが、また彼女が山を探す姿を見たいと思う。 ------------------------------- 四十代を迎えたある日を境に、無性に山が気になりはじめた。 それからというもの、何かに取り憑かれた様に山に入った。 気づけば一年と経たないうちに数十座は登っていた。 何故、それほどまで山に惹かれるのか? 明確な理由は分からないが、 日本人に古くから根付く自然観や宗教観によって 山を求めている気がしてならなかった。 私は山を探していた。 川野恭子 One day when I reached my forties I began to be absorbed by mountains. After that, as if obsessed, I started climbing mountains. Before a year had gone by I realized that I had climbed dozens of mountains. Why was I so fascinated with mountains? I don't know the exact reason why, though I can't help but think that my desire to experience mountains has to do with the Japanese view of nature and religion we have been imbued with from times of old. I was looking for the mountain. 252×210㎜|72ページ|蛇腹製本 アートディレクション 金晃平 3,850円
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PRESAGE / No.22 市ノ川 倫子
¥1,500
SOLD OUT
「浮遊感」 まず思い浮かんだのはなぜかこの言葉だった。 フィルムカメラで丁寧に切り取られた1枚1枚の被写体は、 草木だったり水面だったり地面だったりと、決して特別なものではない。 けれども目にするとどこか心がざわつく。 草木が作り出す影、ふとした角度で見える光線、 そんなものたちに「PRESAGE(=予感)」を市ノ川氏が感じ取り、 それを作品として表現しているのだと思う。 被写体をそのまま切り取るのではなく、 彼女の心のフィルターを通して見えている浮遊世界を覗いているような1冊。 ------------------------------- 何気ない日々のように見えて 空気の中に予感は充ち満ちている そこにあるものが少しずつ少しずつ 形を変えて明日を作っていくように PRESAGE 日々の欠片 この目に映るすべて それは未来への兆し A5版縦、48ページ 1500円
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Tokyo Retro ~unforgettable words~ / No.10 Andy's Photo Journey
¥3,000
忘れられない「ひとこと」は、Andy氏の祖母が語る昔話や、少しだけ言葉を交わした老人の思い出話から始まる。 今はもう見ることも叶わない、かつての東京の姿が、彼らの言葉でよみがえる。 言葉から想像し、想像を写真が補う。 東京の現在と過去を行き来しているような、少し不思議な感覚にとらわれる1冊。 A5版縦 96ページ 3000円
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Andy's Photo Journey ~unforgettable words~ / No.10 Andy's Photo Journey
¥3,000
人生の中でときおり出会う、「忘れられないひとこと」 折々に思い出したり、また何十年も経って突然に思い出す「ひとこと」を、掬い取って綴っている1冊。 人生において、心に残る台詞に出会うことはときたまある。 日々の暮らしで忘れてしまっていても、ふとした瞬間に思い出す言葉。 そしてその「ひとこと」で、その時の記憶が鮮やかに思い出される。 まるで自分の頭の中が劇場になったかのように。 Andy氏は人との関わりをとても大切にしているのだろう。 家族と、友人と、ホームステイ先の家族と、旅先の店のご主人と。 彼らと言葉を交わしながら、その時見た景色を焼き付けながら、一つ一つ物語を紡いでいるのだろう。 前作「Andy’s Photo Journey」に引き続き、旅や出会いの素晴らしさを感じさせてくれる一冊。 A5版縦、78ページ 2019年1月発行 3000円